ユタカの部屋VOL.38 坂井奈緒氏
ウジイ(以下 ウ):自己紹介をまずお願いします。
坂井(以下 サ):はい、こめやかたの坂井奈緒です。36歳です。楯岡生まれ楯岡育ちで、高校卒業後は東京で5年間暮らし、勉強していました。こちらに戻ってきて、今は実家のお仕事をさせていただいています。
ウ:東京での5年間何をされていましたか。
サ:専門学校で勉強をしてました。映画を作る勉強です。映画の美術でセットを作ったり、小道具の準備をしたりして、その世界観を作り上げる仕事をしたいと思って勉強をしてました。
ウ:こっちに戻ってきて、映画とは全く関係のない仕事になってるんですけど、きっかけは何だったですか。
サ:最初に帰ってきたときは全然家のことをする予定もなく、ただリフレッシュのために帰ってきてたんですけど、世界を旅行するようになって、そしたら、日本人よりも稼ぎは少ないんだけど、すごく充実した日々を過ごしている人たちを目にすることが多かったんです。それって何かなと思ったら、家族で一緒にいる時間が長いというか、家族と一緒に仕事してる人が多いのかなって感じたんです。自分が家族と一緒に長い時間できる仕事って何だろうなって考えたときに、農業だなと思ったんです。もっと農業に力を入れてきたいなと。親もやっていたので、一緒に仕事させてもらおうと思って、こっちで戻ってきて農業するようになりました。
ウ:はい、ありがとうございます。昔から坂井さんというと、燃料屋さんのイメージが大きかったんですが、今はどんな事業をやっていますか。
サ:そうですね。最初燃料店としての家業がありました。今は燃料高騰とかもあって、すごく大変な仕事になってきているということと、私たち自身が農業が面白いし、自分たちで育てたものを、自分たちの手で売る、ゼロから作り上げて人のところに届けるという点が面白いので、そっちにシフトチェンジしています。
以前学んでいた映画もゼロから始めるんです。最初は本当にゼロで脚本が書き上げられ、いろんな専門家がそれぞれのことをやって世界観を作って作品ができ、それが誰かの目に触れて、その人の気持ちが楽しくなったり、やる気が出たりというのが映画です。農業も同じく、ゼロから始めて自分たちでいろいろ作って育てて、その出来上がったものを誰かに食べてもらうことで、その人の気持ちが豊かになったり、勇気が湧いたりすることが本当に映画と同じだと思っています。
だから、私がやりたかったことって何だったんだろうって振り返ると、そういうふうに誰かの役に立ちたいというか、自分が何かをやったことで誰かが元気になったりすることが好きだということがわかりました。だから今すごく楽しいです。
ウ:農業を始めるにあたって土地はどうしたんですか。
サ:最初は家で所有してたちっちゃな田畑があって、それで米作りを始めたんですよ。時代とともに、もう自分はできないから代わりにやらないかという人が現れて、最初は土地を買ったんです。なんか昔は土地を借りて農業ってなんか駄目だったらしいんですよ。だから最初に買って、またどんどん借りていくようになって、今農地が増えてきてるっていう感じです。
ウ:今はどんな物を作ってますか?
サ:一番は米。次がきゅうり、露地のキュウリをして、3,000本作ってるんですよ。それとさくらんぼと枝豆です。
ウ:全部の仕事の中の何割ぐらいが農業ですか。
サ:農業っていうと、農業生産、農作物生産だけっていうイメージがあるけど、私達が考える農業って、農作物を生産してそれを加工して販売する。またこうやって食堂をすることによって、自分たちが育てたものを食堂で提供する、これもまた農業だと思っているので、今は100%農業ですね。
燃料の方は完全に終了してしまっている状態です。
ウ:あと、事業としてゲストハウスをされてますが、こちらについてはいつ頃から始めて、どうふうに事業を展開していますか。
サ:ゲストハウスの方は2014年に始めたんです。
子供が生まれたんですよ。私旅が好きだからいろんな所に行きたいんだけど、子育てしながらだとなかなか遠くに出かけることができなくなって、ちょっと面白くないなと思ったんです(笑)
じゃあ行けなかったら来てもらえばいいんじゃないのって思って。来てもらうことによって、世界の面白い旅人も来るし、あと日本国内の人たちもなんかとも大勢出会えるんじゃないかと思ったんです。ゲストハウスっていう安く泊まれるところがあると、山形の美味しいものを食べて、山形って美味しいものがたくさんあるねって思ってもらい、地元に帰ったときにスーパーにいろんな産地のものが並んでいるかもしれないけど、山形のものを買おうかなってちらっと思ってもらえるかもしれないなって思ったんです。そんな感じでゲストハウスも農業の一環で始めたんですよ。
ウ:今ゲストハウスはLINKむらやまに移ってますよね。
サ:もう手が足りないので、100%LINKむらやまでの営業になってるんだけど、それも何とか自分たちで事業を回してて、夜だけ別のスタッフにやってもらってます。それも泊まる代金の代わりに手伝いをするみたいなフリーアコモデーションっていうスタイルの人をお願いしています。
ウ:そのフリーアコモデーションっていうあまり聞き慣れない言葉についてちょっと教えてください。
サ:文字どおりフリーな宿泊、無料の宿泊なんだけど、対価はお金ではなくて仕事をすることによって支払うっていうスタイルの人のことです。
ウ:お客様はどのような方々がいらっしゃいますか?
サ:現在、多くのお客様は主に関東圏の若い人です。また海外はヨーロッパからのお客様が増えています。コロナの期間中は私たちは宿泊のお客さんを受け入れていませんでした。やっぱりなんか怖くて。その気持ちがお客様との距離を作ってしまうことになるし、何を目的に営業を続けるべきかも疑問が出てきたので、営業を完全に休止していました。その間にLINKむらやまができて、宿泊施設ゲストハウスとして入居する話が進みました。将来、私の子供たちが成長した頃に、この施設が彼らにとって面白く魅力的な場所となるようにという考えで、入居を決めました。今年の4月のことです。
ウ:何人くらい入れる施設ですか。
サ:マックスで11名です。基本は男女問わず泊まれる場所ですが、女性専用の場所も用意しています。
ウ:こんどは、このもちやかたの話を聞かせて下さい。いつごろ初めてどういう施設なのかを教えてください。
サ:12年くらい前のことです。それまでもうちの母がずっとお米を東京に発送していたんですが、その人の中からリクエストをもらって、山形のモチも売っていたんです。
ウ:米の生産っていうのはモチ米なんですか。
サ:うるち米も両方やってますが今はモチ米の方が多いのかな。
母が細々と発送していたんだけど12年ぐらい前に、こんなに喜ばれてるんだったら、ちゃんと杵と臼でモチをついて送ったらどうだろうって話になったんです。そこから母と交代して杵つきのモチを送るようになったんですが、それが徐々に広がって、私達自身ももっとうまいモチを食べてもらいたいっていう気持ちが強くなってきて。
逆に今どんどん世の中で「餅つき」って少なくなってきたでしょ。でも餅つきって楽しいんですよ。見ていても元気が出る。なくなると寂しいなって。LINKでのゲストハウスと全く発想は一緒なんだけど、自分たちは未来の人たちに何を残せるんだろうかって考えると、それが私達が今楽しくできている事ではないのかなっていう中で、その餅つきを続けていきたいなって思っています。
やっぱり杵でついたモチはうまいって喜ばれるんですよ。今まで細々とやってたんだけど、せっかくついてるんだから人に見てもらいたいっていう欲求が出てくるんですよ。商店街の岡村八百屋さんの跡地をお借りして、あそこガラス張りだしいいんじゃないかって、吉藤さんに橋渡ししてもらってはじめました。そこで餅つきしたら、みんなが餅つきってなんかすごいなってなったんですよ。もうみんな食べたくなって「今その生モチ買えないのか」言われたんです。最初断ってたんだけど、食べたいっていうリクエストが多いんだったら少しその場で売って食べてもらってもいいんじゃないのってことになったんだけどそのときはまだ営業許可は「モチだけ」だったんで、どうしようかなとなりました。結局納豆とかはその場において、あとはトッピングはそれぞれ好きなのを持ってきて下さいっていうことにして。トッピングを入れて持ってきてもらったタッパーにモチを入れて 1個50円で販売してました。
そうこうしているうちにやっぱりちゃんと味つけたモチも食べたいっていうお客さんの声があって、しかもそのタイミングで今の場所が空いたんです。今の食堂もちやかたの場所を借りて、ちゃんと座って食べたいという声に応えるために席を設けて、今度はちゃんと飲食店の営業許可で始めました。
ウ:パフォーマンスから始めたんですね。
サ:最初は食堂をやるつもりはなかったんですけどね。とにかく見てもらいたいっていう気持ちで。
ウ:ここで出してる代表的なメニューを教えて下さい。
サ:代表的なメニューね。昼間に食べられる定食があって、モチ4個と雑煮とちょっとしたおかずがついてるモチ定食っていうのがあります。4個のモチを何味にするか選べる定食と、あとはおこわ。おこわももち米でできるからね。おこわ定食っていう角煮が乗ってる定食と、鶏五目おこわ、山菜おこわあと今の時期だと芋栗おこわっていうのがあって、あとは単品で納豆餅、ずんだ餅、きなこ餅、くるみ餅、変わったところでアップルバター餅とか、チーズ磯辺餅とかってあるんですよ。
当然私たちは農家だから、できることだったら自分たちが育てたものを使いながら、あとここには直売所があるんです。近所の農家さんがみんな持ってくるので、それをらを利用してこの辺のものを使った料理が入ってるような。 ずんだとかおかずじゃないけど自分たちで秘伝枝豆を育てて、それを収穫してすぐさやから取って蒸してむき身にして、1年分保存してるんですよ。とても香りが良いんです。くるみも、楯岡の山から取ってきて、それをひと冬「ホジホジ」したのを使ってたりとか、あと山菜も山から採ってきて、それを水煮にして保存して使ったり。なくなればもう終わりなんだけれども、何かその時期の栗なんかもね、甑岳から取ってきた山栗を使ったりとかしています。
ウ:いろんなとこから仕入れたものを組み合わせて作ってるって思ってる人が大半だと思うんですけど自分たちで採ってきて提供している店だと思わなかったです。
サ:うん、楽しいでしょ。私たち自身が楽しいことをしたいなと。そういうのを楽しいと思ってもらえる、そしてそういうのを食べること、共有することでみんなで作れる豊かな暮らしができるんじゃないかなっていうのが、とても楽しいところです。
ウ:ありがとうございます。
何か将来の展望まで語ってもらったような気がしますが、その他にこういうこともやってみたいなっていうのはありますか。
サ:なんか楽しくやっていきたいっていうこと。私が今46になって気づいたのが、これからどんどん未来が変わってくよって言われてきて、その未来って何なのって思うと、今自分がね46で生きている2023年っていうのはもっと前の人たちがずっと積み重ねてきたものがあって今になってるわけじゃないですか。ということは、2023年からその先の2045年とかになった時に訪れる未来っていうのは、私達40代、50代の人たちが日々を作り上げてきて2045年になるんだなってすごく感じてるんですよね。突然未来に子供たちが投げられるんじゃなくて、私達が作ってきた未来の中に子供たちが生きるんだって思ったら、そこを毎日考えながら、その未来に生きる人達がその時代に生きれてよかったなっていう未来になるように、日々自分の中でやれればいいなっていう、ちょっと抽象的すぎて難しいですけど、そんなことが夢です。
ウ:最後にここの営業時間と営業日を教えて下さい。
サ:変則的で冬は11月から6月いっぱいは水木お休みで、10時から5時まで営業してます。7月からは農作業がめちゃくちゃ忙しくなって、7〜10の4ヶ月間の農繁期のときは土日月の3日間だけの営業。営業時間は変わらないです。どっちもランチタイムは11時半から2時まで、2時から4時半までの間はカフェタイム。餅2個とドリンクがあって500円っていうとてもリーズナブルなセットが楽しめます。
もちろん年中出しています。
ありがとうございました!