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ウジイユタカ

ユタカの部屋 vol.84 佐藤政史氏

よろしくお願いします。ではまずひっぱりうどんとは何かというところからお話をお願いします。

 

「ひっぱりうどん」は山形県の特に内陸部に伝わるうどんの食べ方です。名前の由来は、麺を茹でた鍋から食べる人自身が直接麺を引っ張り上げ、そしてタレに絡めて食べる、その「引っ張り」という部分からひっぱりうどんと呼び親しまれるようになったと伝えられています。

この食べ方は本当に手間がかからない上に美味しく、そして体がとても温まるため、寒さを越える冬には何回も家庭の食卓にのぼります。

このひっぱりうどんの材料には、乾麺を使います。

そして麺を絡めて食べるつけダレですが、この決まりは特にはありません。

その人好みの思い思いのつけダレにつけて食べる、それがひっぱりうどんの醍醐味となっています。

続いてひっぱりうどんの作り方です。非常に簡単なんですが、まずは鍋で麺を茹でるお湯を沸かします。

お湯が沸騰したら、鍋に乾麺を入れます。その茹でている時間を使って思い思いのつけダレを作ります。麺が茹で上がったら鍋から麺を引っ張り上げつけダレに絡めて食べる、これの繰り返しです。

そういった作り方から、このひっぱりうどんの定義を研究所として定めています。

乾麺を使うことが第1点。2点目は、麺を茹でる鍋から食べる人自身が直接引っ張り上げること。

引っ張り上げた後は自由です。それぞれ思い思いのつけダレにつけて食べるところが3点目、この3点をと定義として定めています。

そしてこのつけダレですが、引っ張り上げた後は自由、思い思いにと言っていますが、そういった中でもやはり基本の食べ方、基本のつけダレというのがあります。まず一つ目は、納豆を使うこと。二つ目は、生卵を使うこと。三つ目は、サバの水煮の缶詰、サバ缶を使うこと、この三つをそれぞれ単独で使うか、それともを組み合わせ、混ぜ合わせて食べるか、そのあたりも自由です。

この納豆、生卵、サバの水煮の缶詰、これを醤油で味を整えたものが基本の食べ方となっています。

 

ひっぱりうどんの発祥とか、いつ頃から食べられてたとかそういうのはあるんですか。

 

このひっぱりうどん研究所が活動するきっかけになった部分でもありますが、ひっぱりうどんの発祥の地と言われるのが、この村山市の西部、戸沢の樽石地区、ここでひっぱりうどんと呼び親しまれるようになったと伝えられています。樽石地区に昔、非常に貧しい時代に炭焼きをして生計を立てていた人々がいらっしゃいました。

その人たちが炭焼きをするために、山ごもりを1週間ほどするわけですが、そのときにうどんの乾麺を山に持ち寄り、そこで鍋に湯を沸かし麺を入れて食べ、それを引っ張りと読んで食べていたのが、ひっぱりうどんの発祥ということで伝えられています。

 

続いてひっぱりうどん研究所というネーミングも含めてその沿革と、今どんな活動されているかについてお話をお願いします。

ひっぱりうどん研究所が発足したきっかけは、ひっぱりうどんの発祥地がここ村山市、地元の戸沢地域だというところから、このひっぱりうどんをテーマとして活動すると地元が盛り上がるのではないかということで、地元地域の有志に声掛けをして、集まった人たちで発足しました。

 最初は地元でひっぱりうどんの発祥、そしてまたこのひっぱりうどんが地元に根付くようになった経緯、そういった歴史文化的な部分をみんなで研究しながらPRして、そこに着目してもらって、盛り上がっていければというところで活動がスタートしました。

 

いつ頃からですか。

 

平成22年ですね。2010年です。

ちょうどひっぱりうどんがこの地元発祥らしいというところから、みんなで何か活動をやってみようかというふうに盛り上がった時期がその頃です。

 

ではそこから現在に至るまでに、こんなことをやってきたという活動の内容について教えてください。

 

まずは地元等でこのひっぱりうどんをみんなで食べて、機運の高まりというか、ひっぱりうどんを通して懇親を深めよう、語り合おうというところから始めました。後でひっぱりまつりという形に今も繋がっていますが、そのひっぱりうどんを食べる機会ということで設けて提供してきました。

樽石が発祥と言われていますが、やっぱり樽石地区も戸沢なので。戸沢全体でこれは戸沢の食文化なんだということで、みんなで盛り上げようという形で活動を始めました。

ひっぱりうどんは先ほどから身体がとても温まる食べ物というところから、冬という季節に限定されるように見られがちですが、せっかく良い食べ方なので、もっと春夏秋冬、一年を通して親しまれるような食べ方をというようなことで、四季折々の食べ方を研究しようと、そしてそれを皆さんにPRしようというようなことで活動を進めました。

そうしているうちに、このひっぱりうどんという食文化が地元、そして山形県だけではなくて全国的にも珍しい、面白い食べ方だということで着目していただけるようになったので、このひっぱりうどんという食文化をぜひ幅広く知っていただきたいということで、様々なイベントに出展してひっぱりうどんを食べ親しんでいただいて、良い食文化だと思っていただけるように活動を進めてきているところです。

 

ひっぱりうどんというのは、基本的にはご家庭で食べるもの、もしくは仲間と集まって食べるものっていうふうに解釈していいですか。

 

はい。基本はそうです。お店に行って食べるというのではなくて。ですので 最初この研究所の活動を始めたときに、当初B級グルメイベントへの出展という考えもあったんですが、やはりB級グルメというより、このひっぱりうどんは地元に根付いた、地元で愛される食文化なんだというふうなことで、そういった捉え方をして研究所としては関わってきました。

 

冬だけではなくて、春夏秋冬それぞれの季節に合わせた食べ方とかそういうお話もあったので、基本レシピは大切なものだと思うんですけど、おすすめの変わった食べ方、そういうのをいくつかご紹介いただけると助かります。

 

マスコミの取材で何か正月向けの食べ方はないかというところがとっかかりだったんですけど、そのときは単純に正月だから祝いだろうということで、何か赤い食材を混ぜたらいいんじゃないかということで、納豆と鯖缶にキムチ、紅しょうが、そういう食べ方で祝いの赤みたいな感じでPRしたことはあります。

歴史的な背景も考えていった経緯から、地元の方では、正月にはとろろを食べたり、なぜか玄関先にとろろを摺ったものを置いて、厄除けなのかな、そういった使われ方もあると。そしてまた、実はひっぱりうどんを最初に食べたときは、さっき言ったように山ごもりをして食べていたときは、茹でた鍋からうどんを引っ張って塩を振って食べてるだけだったそうです。それが山で食べるだけではもったいないほど体が温まって美味しかったので、家庭でもするようになり、それがおいしいということで口伝えに広がったのがこの食文化形成のスタートなんですが、家庭でそれを食べたときは、貧しい中でも周りには食材がありまして、家庭の畑で栽培している大根と、とろろをすり合わせして混ぜて食べたというところが、食材としてのスタートだったそうです。とろろもお正月におすすめの食材というようなことでPRしたいなと思ってます。

夏場に冷やしひっぱりうどんというのもおすすめです。やっぱり夏場にうどんを熱々で引っ張ってというところではなかなか箸が進みませんので、冷水でうどんを締めた上で、それを引っ張っていただきます。その食材としては、やはり夏の山形の食文化として「だし」というものがありますので、だしと納豆と鯖缶、そこを組み合わせて食べていただければということでおすすめしております。あとはそのときの薬味として、また山形の暑い夏ならではの青唐辛子を刻んで混ぜて食べると、私的には非常に良い美味しく、おすすめしております。

 

いろいろレシピを教えてもらったんですが、所長さんのイチオシの味付けはなんですか。

 

いろいろ試してきたんですが、バターとかチーズとか、あと変り種ではカレーとか、ごま油とかラー油とか、その他いろいろな食材を使ってきたところはありますが、やっぱりここに来て一番しっくりくるなって思うのが、本当に基本立ち返る形ですけども、納豆とサバの水煮の缶詰、そこに大根おろし。あとはもう一つ、またこれも基本ですけど納豆と生卵ととろろ。そこにサバが入るかどうかはまたそれは好みですけれども、この二通りが一番おいしいのかなと思っています。

あともう一点あるんですけど、基本ひっぱりうどんは、家にある食材を使って手間をかけないで食事を済ませるというふうなところから重宝されてきたところはあるかと思うんですけど、そういった中でも、食材を吟味することによって、非常に美味しくなると思ってます。なので、サバ缶もやはり皆さん好みのサバ缶というのを見つけてもらって組み合わせ、あとはもちろん醤油もおいしいものを自分で見つけて使ってもらうのが美味しさのポイントじゃないかなと思ってます。

でも、研究所としてはなかなかマスコミには商品名は伝えられないんですけれども、サバ缶ではマルハニチロの月花というのが一番あうのかなと思ってます。あともちろん納豆も大粒から小粒そしてひきわりとかもあるでしょうけども、そこら辺は好みで探してもらって。醤油に関しては地元の高梨醤油店の味つゆが、やっぱり一番合うのかな、おいしいのかなと思って使ってます。そういった食材をこだわるっていうのもやっぱり美味しさのポイントじゃないかなと思ってます。

 

納豆1に対してサバ缶いくつとか、醤油どれくらいとか、そういう分量とかのおすすめはありますか。

 

個人の好みとかいろいろあると思うんですけど、私個人的には、納豆1パックがあれば最初は半分だけ使って、その味を食べ終わったらまたその半分でまた別の味付けで食べるとか、味を少しずつ変化させていけるっていうのもひっぱりうどんの一つの楽しみかなというところです。私の場合はパックの半分を使って、鯖缶は4分の1缶ぐらい。あとはサバ缶の汁も適度に入れた方がやっぱり味の深まりがあっておいしいのかなと思います。

あと卵を使う場合はやっぱり1つですね。

 

かき混ぜてから入れるのか、それともそのまま入れてまぜながら食べるのかでも違いますよね。

 

やっぱり納豆を器に入れて、サバ缶を入れて、そして最後に卵を割り入れて数回ザクザクと、2〜3回程度まぜ合わせたぐらいで、あとはもううどんを引っ張った後に、うどんの熱と一緒に絡めて食べるのが美味しいんじゃないかな。

 

よだれが出てきますね。活動の内容にまたちょっと戻るんですが、やっぱりコロナでここ1〜2年ぐらいなかなか活動はしづらいところもあるとは思うんですが、コロナが落ち着いたあともしこの再開できるとしたら、年間どんな活動してるのかっていうのを教えて下さい。

 

活動の計画は毎年9月ぐらいですかね、メンバーが集まって打ち合わせをするんです。なぜ9月かっていうと、9月下旬から10月の上旬にかけて秋田県湯沢市で、「全国まるごとうどんエキスポ」という全国規模のうどんだけのイベントが開催されますが、その出店に向けての具体的な打ち合わせをします。

そのうどんエキスポは、1日10万人ぐらいのお客さんがいらっしゃって、それが2日間開催されるイベントです。

その後11月初旬ですかね。「全国ご当地うどんサミット」というのが開催されまして、そこは全国の様々なうどん団体が、手挙げ方式で開催地が決定されるイベントです。3年に一度、その開催地の更新があって場所が変わります。そこに出店するということでその打ち合わせをしています。

これまでの経緯としては、愛知県の蒲郡市で開催されたサミットと埼玉県熊谷市で開催されたサミットにそれぞれ出展してきています。

あとは11月になると、本当にもう地元でもひっぱりうどんのシーズンとなります。

マスコミの皆さんから紹介して欲しい、取材させて欲しいっていうことに対応していく形です。

年末の前にひっぱりうどんの「引っ張る」という語呂と、受験の志望校の合格を引っ張るっていう名前を掛け合わせて「受験必勝合格ひっぱりうどんお払いの儀」というのを行ってます。そこでひっぱりうどんに関係する乾麺などをお払いをして清めた食材で、例えば受験生の夜食の際などに使っていただいて、ぜひ志望校の合格を掴み取って引っ張り上げてほしいというようなことで、イベントも行ってきています。

その後、年が明けるとひっぱりうどんの本格的なシーズンです。先ほど申し上げた、ひっぱりうどんの発祥の地、地元戸沢での「ひっぱりまつり」ということでこちらは戸沢まちづくり協議会との共催によって行ってきています。旧暦の小正月に合わせてますのでだいたい1月の下旬から2月の中旬の間の土曜日か日曜日というような形で行っています。

 

研究所いう名前っていうことは、やっぱり所員さんがいらっしゃるということだと思うんですけど、所員さんは何人くらいで活動されて、あと新たにメンバーを募集してるのかどうか

を教えてください。

 

研究所のメンバーですが、呼び方としては「研究員」という呼び方でやっています。ひっぱりうどんの研究員は現在、実働で15名ぐらいですね。研究所が発足したときは、このひっぱりうどんに関する歴史と文化の研究のというところだったので、地元の郷土史研究会の皆さんとか、あとは婦人会の皆さんというか地元のお母さんたち。調理関係というのでお母さんたちの団体からも関わってもらって最初は30人ぐらいで立ち上げました。いろいろ話ししたり、自分たちで作ったり、イベントの運営みたいなこともやってまして、また今はイベントへの出店ということで様々なところに出向いたりとかしているので、現状は15人ぐらいが実働となっています。

 

新研究員募集とかはしてますか。

 

最初は地元の戸沢地域の人たちでというスタートだったんですけども、やはり活動を進めていく中で、やっぱり発祥は戸沢ではありますが、このひっぱりうどんの食文化はこの地域にとどまるところでないというところから、今のところはもう村山市内の方でこのひっぱりうどん研究所の主だった活動に定期的に関わってくださるっていう方であれば、メンバーとしてぜひお迎えしたいなと思っています。

 

あとこれはPRしたいなということがもしあればぜひお願いします。

 

そうですね、ひっぱりうどん研究所の活動でテーマに設けていることがあります。二つありまして、まずはこのひっぱりうどんっていうのが、その食べ方自体が一つの鍋をみんなで囲んで食べる。体が本当に温まる食べ方であり、団らんが深まる食べ方だなと、非常に良い食べ方だなと思ってます。そういったところから「一つの鍋が通わせる体と心のぬくもり」ということを、ひっぱりうどんをPRするときの一つのテーマとして皆様にお伝えしています。もう一つのテーマとして、このひっぱりうどんは貧しい時代に生まれた食べ方です。

生まれたのは戦前戦後のちょうど真ん中あたりの時だったと思うんですが、その時は本当に現金さえ流通していない戦争も関係する混乱の時代です。そういった貧しい時代からこの今の本当に豊かな時代まで、日本の高度経済成長を経て、経済と日本の食卓も豊かになってきました。それと並行してひっぱりうどんの食べ方も豊かになってきたということで、本当に貧しい時代の人たちの努力があって今の私達の豊かな時代があるというようなことも伝えていきたいと思っています。貧しき時代があってこそ豊かな今があるというようなこともひっぱりうどんを通して伝えていけたらなということで、テーマとしています。

この二つのテーマを大事にし、幅広く皆様にPRすることで、良い食文化だなと思っていただきたい。地元以外の人たちからも良い食文化だなと思っていただくと、地元の人たちも非常に嬉しくなると思います。そしてそれが郷土愛に繋がる。

そういったところから、その二つをテーマにこれからも活動していきたいなと思っています。

 

ありがとうございました!

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