【ユタカの部屋 第55回 堀川清(ほりかわきよし)氏】
開店前のコーヒーを、もう一杯。田舎カフェレストラン「めもりい」堀川清さん

山形県大石田町田沢にある「田舎カフェレストラン めもりい」。開店前、近所の年配の方が、自分で育てた野菜を持って訪ねてくる。オーナーの堀川清さんはコーヒーをいれ、仕込みの合間に、この土地の昔話を聞く。その時間が楽しみなのだという。
村山市で店を始めて約40年。大石田町の自宅に店を移した今、堀川さんは、ようやく自分のためにも時間を使えるようになったと話す。幼い頃に炊いたご飯のこと、常連さんと店の名前を決めた夜、そして次に出かけたい旅のことを聞いた。
開店前に聞く、この土地の昔話
――店を開ける前は、どんなふうに過ごしていますか。
前は朝に農作業をして、そこから急いで買い出しに行って、店を開けてからサラダを作るようなこともあったんです。今は朝から仕込みができる。寒い時期なら、まず薪ストーブに火を入れますね。
近所の101歳になるおじいさんが、ほとんど毎日のようにコーヒーを飲みに来るんですよ。ネギも白菜も大根も自分で作っていて、それを持ってきてくれる。気を遣って持ってこなくていい、コーヒーを飲みに来てくれればいいんだって言うんですけどね。
――お二人で、どんな話をするんですか。
この辺りの昔のことを、何でも知っているんですよ。あの人だから聞ける話がある。コーヒーを飲みながら、そういう話を聞くのが私も楽しみでね。来られなくなったら、本当に寂しくなると思います。

もみ殻で炊いた、ふっくらしたご飯
――料理が好きになったのは、いつ頃ですか。
小学校に入る前だったと思います。うちは農家で、忙しい時期には私も田んぼについていくんだけど、子どもだから、できることはそう多くない。それならご飯の用意をしておくよって、家に帰るんです。
あの頃は、もみ殻を燃やして、ご飯を炊いていました。それがふっくら炊けたんですよ。今でも忘れられないですね。そうやって家のご飯の支度をしながら、少しずつ覚えたんでしょうね。
――店を始めてからも、料理はご自身で工夫してきたんですか。
自己流ですね。お客さんに「こういうのが食べたい」と言われたら、作ってみる。いけそうだと思ったら、メニューにも入れる。そうやって増えていった料理もあります。
今も畑で大根やピーマン、ジャガイモなんかを作ります。店でまず食べてほしいのは、野菜ですね。サラダを食べてもらって、おいしいと言ってもらえるのがうれしい。夏にトマトが余れば、欲しい人に摘んでいってもらうこともありますよ。
楯岡で開いた店。常連さんと決めた「めもりい」
――最初の「めもりい」は、どんなふうに始まったんですか。
大石田で飲食店に勤めて、自分でも店をやりたいと思っていたんですが、なかなか物件が見つからなくてね。そんなとき、母が買い物先で、2階の空いた場所で誰か店をやらないかという話を聞いてきたんです。すぐに見に行ったら、通りに面したガラス張りの場所で、ここならいいなと思いました。
前の店の造りが残っていたので、この壁はいらないな、カウンターはどうしようかと、大工さんと相談しながら、自分が仕事をしやすいように手を入れました。昭和57年、村山市の楯岡で「スパゲッティーハウス めもりい」を開いたのが始まりです。
――「めもりい」という名前は、どうやって決まったんですか。
前に勤めていた店の頃からのお客さんが、うちに集まったんです。飲みながら、これがいい、あれはどうだって、みんなで名前を出し合ってね。思い出に残る店、また来たくなる店にしたい。それで「めもりい」に決まりました。
――楯岡の店といえば、壁一面に漫画が並んでいたのを覚えています。
あれは、面白そうな漫画を古本やネットのオークションで少しずつ集めたんです。壁に並べきれない分は段ボールに入れておいて、ときどき入れ替えてね。ずいぶん集めましたから、自分では漫画喫茶のはしりみたいなものだったかな、と思っています。
楯岡でやっていた頃を振り返ると、いろんなお客さんの顔を思い出しますね。今思うと、自分でもよくあれだけ長くやったなと思います。
店を移して、少し先まで見えるようになった
――約40年続けた楯岡の店を、大石田のご自宅に移したのはなぜですか。
前の店は、続けるなら大がかりな改装が必要だったんです。そこまでお金をかけて続けるかと考えたとき、前から自宅でやれたらという気持ちもあったので、思い切って戻ることにしました。
この家は自分で間取りを考えて、天井も高めにしてもらっていたんです。実際に店にしてみたら、あのときから、いつかここでやるつもりだったのかなって思いますね。オーディオを置いたり、カラオケができるようにしたり、自分がやりたいように作った店です。
――移ってみて、日々の過ごし方は変わりましたか。
前は買い出しも仕込みも自分でやって、ほとんど休みなしでした。今は、今日はもうお客さんが来ないかなと思えば、そこで休める。自分のやりたいこともやっていいのかなって、少しずつ視野が広がった気がします。
楯岡の頃のお客さんが、今も来てくれるんですよ。飲み会をやりに来てくれたりね。そういうときは、続けてきてよかったなと思います。本当に感謝ですね。
行きたいところへ、行けるうちに
――これから、ご自身が楽しみにしていることはありますか。
まずは元気でいることですね。それから、車で出かけること。前に2週間ほどかけて、四国を一周して、広島や山口のほうまで回ったんです。今度は北海道にも行きたい。温泉も巡ってみたいですね。
今まであまり休まないでやってきたから、行きたいところには、動けるうちに行っておきたいと思うんです。
「めもりい」の名前を決めた夜には、常連さんたちがいた。店を移した今も、昔からのお客さんが訪ねてくる。朝には、コーヒーを飲みながら昔話を聞かせてくれる人がいる。旅の話をするときの堀川さんは、自分にも楽しみな予定ができたことを、うれしそうに語っていた。
田舎カフェレストランめもりい
11:00〜最後のお客様が帰るまで


